第三章 守る意識 守備率よりも守備機会 守備力を数字で表すのは難しい。 そもそも、エラーの判定は記録員の主観による部分が大きい。難しい打球でもグラブに当てて弾けばエラーになることがあるし、簡単な打球を逸らしてもヒットの判定になることがある。守備の表彰である三井ゴールデン・グラブ賞にしても、五年以上の取材経験があるプロ野球担当記者の投票によるものだ。それだけ、守備力を客観的に評価するのは難しいということだろう。 守備力を表すのによく登場する。守備率という数字がある。刺殺数、補殺数を足したものを、刺殺数、補殺数、失策数の合計で割った数字だ。守備機会に対して、失策する確率を示しているが、これも選手の守備力を言い表しているとは言い難い。難しい打球にチャレンジしなければ、失策数が減って必然的に守備率は上がるし、守るポジションによっても平均値が大きく違う性格を持つからだ。 それでは、何を拠り所にしていたのか。野球を統計学的に見るセイバーメトリクス(Sabermetrics)では、レンジファクター(「刺殺+補殺」÷守備イニング数×9)といった評価方法があるそうだが、私は一試合平均で何度、ボールに触ることができたか、この数字を意識していた。 ある年の契約更改の席上では、守備機会に出来高をつけてもらうように要求して、球団に認めてもらったこともある。シーズンを通して、どれだけボールに触れるか。それだけ、難しいボールにもチャレンジした結果といえるからだ。 ショート時代に計算してみたことがあるのだが、一度だけシーズンの平均が5回を超えたことがあった。それまではだいたい4回台で、セ・リーグの他球団のショートをみて見ると3回台だったので、ある程度満足することができた。 ところが、である。パ・リーグはどうなのだろうと思って計算してみると、ロッテの小坂誠が5.6回ぐらいの記録を残していた。一試合平均で5回台後半と、いうのは、異常な数字である。この数字を目にした時、彼の守備範囲にはちょっとかなわないと思ったものだ。 同じショートとして比較されることが多かったのだが、小坂は守備の勘が良かった。それにプラスして、彼の場合は足が速いという特徴があった。私も勘の部分では負けていなかった自負があるが、足の速さという部分では小坂に劣っていると感じていた。やはり、球際(たまぎわ)で最後に追いつけるかという部分で、彼にはかなわなかったのではないかと思っている。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |