第三章 守る意識 シャドー守備 PL学園高校時代、中村順司監督に身体の使い方を教わったのも大きかった。 簡単にいうと、スローイングで自分の身体の軸から投げる手が離れていると、思ったところには投げられない、投げる腕は身体の近くを通せということだったり、左手の位置はここだというのを何度も言われた。考え方という部分でも、高校時代に中村監督の指導を受けられたのはよかったと思っている。 「もっと、腰を落とせ」 守備中に腰の位置を低くするという動作をする時、多くのアマチュアの指導者はこう言った表現を使う。野球をやったことがある方なら一度は言われたことがあるだろうが、中村監督は違った。 「膝を前に出せ、そうすれば、自然と腰は落ちる」 人が腰の位置を低くするには膝を使うのだから、「腰を落とす」と考えるのではなく、「膝を前に出す」ことを意識すればいい。それまでとは違う視点からのアプローチがあったわけだ。 投げ方にしても、必要以上に身体が開けば、投げる腕は身体の軸から離れてしまう。身体を開かないように投げることが、よいスローイングにつながる。人間の身体の仕組みや構造からプレーの動作を考えるきっかけになった。 PL学園高校時代に、日課にしていたことがある。投手はタオルを使って投球動作を確認するシャドーピッチングを行うが、私は「シャドー守備」をやっていた。 PL学園は全体練習が3時間しかないので、午後6時からは個人練習の時間になる。宗教学校だったため、8時半からはお参りの時間があり、それまでに食事を済ませないといけない。掃除も済ませて、また9時から10時まで練習できる時間があるのだが、他の選手が素振りをするなかで、私だけはグラブを持って守備位置に向かっていた。 もちろん、グランドは真っ暗でボールは使えない。そんななかでできることといったら、イメージトレーニングしかなかった。 「九回のワンアウト走者なし。三遊間への深い当たり、宮本が回り込んで捕った。踏ん張って一塁へ。間一髪、アウト!」 頭の中で実況中継しながら、一球一球を想定して、打球を捕って投げる動きを繰り返していた。 バッティングでいうと、素振りが一番いいスイングができる。それと同じで、ボールがない練習では自分の一番いいリズムでの捕球、送球の動作ができる。なぜ始めたのかはもう覚えていないが、シャドー守備で足の運びやスローイングまでの動作を確認していたというのがあった。 みんなが素振りするなか、一人でボールもないなかで守備練習をしているわけだから、目立っていただろう。他の同級生からは「あいつは何をやっているんだろう」と不思議がられていたと思う。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |