第三章 守る意識 遊撃手、三塁手の違いは 2008年のシーズン途中から、ショートではなく、サードを守ることになった。開幕前、当時の高田繁監督に「サードの準備をしてくれ」と言われた時には、正直プライドを傷つけられた思いだった。 高校時代から守ってきて、ショートという守備位置には人一倍愛着を抱いていたからだ。ショートは守備が一番うまい選手が守るポジションだという自負もあった。 「ショートを守ってこその宮本慎也ではないのか」 入団以来、守備を武器に生きてきた自分が、サードに回って存在価値があるのかという葛藤を感じていた。サードは長打力があり、守備は苦手な選手が守ることが多いポジションである。次の世代のショートを育てたいというチーム事情だという事は分かっていたが、簡単に納得できるはずもなかった。 だが、ベテランとなっていた自分が不満を表に出してしまっては、チームとしてまとまるものもまとまらない。チーム方針に従って三塁用のグラブを用意し、春季キャンプでは三塁の守備位置でノックを受けた。開幕前にはバットのグリップや帽子のひさしの裏に「我慢」の二文字を小さく書き込んで、苛立つことがあってもその文字を見て表情に出さないように努めていた。 それだけショートへのこだわりを持っていたので、小川泰弘が入団当初に私のショート時代を知らないと言った時には正直、ショックだった。一年目に16勝を上げて最多勝と新人王を獲得した小川だが、「お前、野球を見ていなかっただろう」と思わず笑ってしまった。 08年の開幕はショートで迎えたものの、6月の交流戦のオリックス戦から三塁手として出場することとなった。最初のサードでの守備は正直、「ヒマだな」と感じた。 ショートは打球が右中間へ抜ければ二塁ベースに回り、左中間へ抜ければ中継プレーのためにボールを追いかける。キャッチャーがピッチャーに返球する時にはカバーに回る。すべてのプレーに関わるポジションである。サードではそういったことが少ないのである。 ただ、シュートとサードのポジションによる違いといえば、打球はサードのほうが断然に難しかった。 ショートのほうが打者からの距離もあるし、判断材料もたくさんある。ショートの守備位置からは投手が見えて、ボールも、バッターの動きも視界に入る。キャッチャーも見え、総合的に予測できる部分が大きかった。 一方で、サードはピッチャーの動きも横目で見なければいけない。ショートと違って視界に入るものが限られ、判断材料が少ないので、想像以上に難しかった。 また、ファーストへの距離が想像以上に遠く感じたショートは足を使った動きのなかでスローイングすることができるが、サードは捕球後に足が止まってしまうため、肩の強さで投げねばならず、肩への負担が大きかった。 サードを守っていて一番困ったのは、左打者の三遊間への打球だった。打球に反応して三遊間の方向へ動くと、三塁線側にボールが戻ってきて行きすぎてしまう。サードは打者との距離が短いので、バッと動いたと思ったら、自分がいた方向にボールが来ている。守り始めた頃は、あの感覚を掴むのが難しかった。 今ではサードをやってみてよかったと思っている。高田監督も私の選手寿命を考えての判断だったのだろう。それまでは「サードぐらいできるよ」少し馬鹿にした部分があったのだが、実際に守ってみると打球に関しては非常に難しい。 その違いは、守ってみなければ分からないことだった。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |