ああ、どうしてまぁ、こうも一週間が長いかねぇ。 第14作『男はつらいよ 寅次郎子守唄』から 山田洋次監督の映画が魅力的なのは、テーマだけでなく、ちょっとした笑いにも、観客にとって「身につまされる」ことが描かれているからだと思います。 第14作『寅次郎子守唄』で、寅さんは看護師・木谷京子(十朱幸代)に一目ぼれ。さくらが京子のコーラス・サークルに誘われ、寅さんも同行することになったのです。一週間を「一日千秋」の思いで、日曜を待っているのです。 ところがタコ社長にとって、一週間は「光陰矢の如し」です。忙しいと連発する社長が「今日は水曜だったな」。おいちゃんが木曜日と答えると、蒼白になって「本当か、水曜日だとばっかり思っていたよ」とアタフタしています。 社長は土曜日が期限の手形があって、目下のところそれが悩みのタネなのです。「なんでこう一週間ってのは、早くたつのかな」と嘆いていると、寅さんが二階から下りて来て「まだ水曜日?なんだよ、俺はてっきり金曜日かと思ったよ」とイライラします。 時間に追われる社長の「もう木曜日」と、京子に会うことだけが全ての寅さんの「まだ木曜日」の見解の相違は、簡単に埋められるものではありません。 「俺の苦労を味あわせてやりたいよ」と社長は日頃のストレスを寅さんにぶつけます。寅さんは「どうしたおじさん、おまえ苦労している面かそれで」とからかいます。暇を持て余している寅さん、ここぞとばかりのストレス発散です。 タコ社長はたまりかねて「お前になんかにな、中小企業の社長の苦労がわかってたまるか」。寅さんの「それを言っちゃおしまいよ」と同様、踏み込んでほしくないNGワードに対する、最後のフレーズです。映画館は、爆笑に包まれました。 その頃、小さい会社を経営していた父も、僕の隣で、声を上げて笑っていました。タコ社長に共感しつつ、笑っていたのだと思います。一方、恋する人は、寅さんの色恋の苦労に、共感したことでしょう。 寅さんの「一日千秋」と社長の「光陰矢の如し」。いずれも極端すぎますが、これもまた「身につまされる」笑いだったのです。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |