どこの川の流れも同じだなぁ、 流れ流れて、どこかの海に注ぐんだろう? 第41作『男はつらいよ 寅次郎心の旅路』から 寅さんの故郷のイメージは、悠々たる江戸川の流れにあると思います。それが少年時代の原風景であることは、映画を観ているとよくわかります。寅さんには川辺がよく似合います。 第17作『寅次郎夕焼け小焼け』では、夏の日差しのなか、兵庫県たつの市の揖保川(いぼがわ)のたもとでアイスキャンディーをほうばります。 第22作『噂の寅次郎』では、静岡県島田市の大井川にかかる蓬莱橋(ほうらいばし)で、旅の雲水(大滝秀治)から「あなた、お顔に女難の相が出ております」と言われたこともあります。 第28作『寅次郎紙風船』で、福岡県朝倉市秋月の野鳥川(のとりがわ)にかかる秋月眼鏡橋(めがねばし)を歩く寅さんの姿は、実に風情があります。 ことほど左様に、旅先の寅さんは、さまざまな川と出会い、そのほとりを歩いています。おそらく寅さんは、そうしたとき、故郷の江戸川の流れに思いをはせているのかもしれません。 「思い起こせば親父と大げんかをした十六の春、これが見納めかと、涙をこぼしながら歩いた江戸川の土手は、一面の桜吹雪でございました」。第38作『知床慕情』の開巻、秋田県仙北市の桧木内川(ひのきないがわ)の満開の桜とともに流れる寅さんのナレーションです。 1968年、テレビ版「男はつらいよ」スタート時に、柴又を舞台とすると決めたのは、帝釈天の裏手に江戸川が流れているからだと、山田洋次監督から伺ったことがあります。 寅さんの望郷の念は、故郷の川を思うことなのです。本編の「寅さんのことば」は、寅さんが初めて海外へと出かけた第41作『寅次郎心の旅路』で、マドンナ・江上久美子(竹下景子)とウイーン郊外を流れるドナウ河畔で、故郷について語り合う場面のせりふです。 ヨーロッパ暮らしが8年目となる久美子が、帰るに帰れなくなった故郷、岐阜県長良川の話をします。そこで寅さんは田畑義夫さんの「大利根月夜」を歌うのですが、ミスマッチと思われる、寅さんとドナウ川が、しっくり似合うのです。 寅さんにしてみれば、悠々たる川の流れも、人々の暮らしも「そう、いずこも同じ」なのです。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |