宮本選手もイチロー選手もやはり超一流ですね。
二人の心は本当にすごいですね。
やはりいいお話が詰まっていますね。
第二章 気づかせること イチローのリーダーシップ リーダーシップの発揮の仕方は、ひとつではない。そう感じさせてくれたのは、2006年の第一回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で見せた、イチローの姿だった。 初めてのWBCという大会で、日本代表にあのイチローが加わる。王貞治監督はキャプテンを置かない方針だったが、選手全員がイチローの存在を意識していた。大会前には、大リーグで活躍する一人のスーパースターが加わることで、チームのバランスが崩れてしまう可能性さえあった。 最後に補充選手として選ばれた私は、WBCでは完全に裏方に回るつもりだった。福岡での合宿初日、イチローを食事に誘った。イチローがチームのなかで孤立することだけは避けなければいけないと考えたからだ。イチローにはこんな言葉をかけた。 「先頭に立ってやってほしい。俺らのところまで降りてきてくれると助かる」 リーダーとしてチームを引っ張ってほしいという意味だったのだが、ボタンのかけ違いか、イチローの答えは「僕はそういうタイプじゃないので」だった。 「分かった。俺でも今、『目の前にイチローがいる』と思いながら食事をしている。若い選手はみんながお前を見ている。全力でフォローするから、頼むな」 どんな試合でも自分のスタイルを変えないというのはイチローらしいと思ったが、内心、冷や冷やしていたのが事実である。 それでも合宿が始まれば、そんな不安はかき消された。イチローの姿は、強烈なカリスマ性でチームを引っ張る、リーダーそのものだからだ。 一番驚いたのは、練習に取り込む姿勢だった。ウォーミングアップから、一切手を抜かないのである。キャッチボール一つを取っても、気の抜けたプレーはひとつもない。結果だけでなく、やっぱり超一流の選手なんだと、すごみさえ感じさせるものだった。 「背中で見せる」と簡単に言うが、これほど難しいことはない。普通の実力で目一杯動いても、意外と選手は見ていないものだ。背中で見せるには、背中で見せるだけの実力が必要なのだ。 イチローは違った。日本のなかでトップの実力を持つ選手が、身近にいる。周りの選手が「イチローさんってどうなんだろう」と注目しているなかで、あれだけ全力で動くと、周囲も「ようし、やろう」という気持ちになれる。 正直、実力のすごい人はいいな、と思いながら見ていた。チームをまとめていくために、どうすればいいかなんて考えなくてもいい。普段道りに目一杯練習するだけで、周りはその姿を見てついていく。イチローはそれだけ歴史的な選手ということだろうが、キャプテンとして苦労をしてきた私にしてみれば、うらやましい限りだった。 イチローは変わった――。喜怒哀楽を見せてチームを引っ張るイチローを多くのマスコミや評論家がそう表現したが、それだけWBCが彼の感情を出せる場だったということなのだろう。 アメリカラウンド初戦のアメリカ戦の夜、野手を中心に開いた決起集会で、目の前に座ったイチローがこう話しかけてきた。 「宮本さん、いいチームになってきましたね」 私もまったく同じ感想を抱いていた。そして、その中心には間違いなくイチローがいたのである。 イチローがロッカールームで人間くさいところを見せてくれたのも、若手がついていくきっかけになった。他愛もないイチローの冗談にみんなで爆笑したのが、イチローとも同じ仲間意識を持つことができたのは、チームのまとまりを生むうえで大きなことだったと思っている。 もちろん、イチローがそんな姿を演じていたのかは分からない。ただ、それが結果的に「俺らのところに降りてくること」だったのかもしれない。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |