私は性格的に、何でもしゃべりやすい方ですから。 第20作『男はつらいよ 寅次郎頑張れ!』から 本書でも寅さんの恋愛論をずいぶん取り上げました。第1作以来、寅さんは数多くのマドンナに恋をしてきましたが、その恋が成就したことはほとんどありません。 こと恋愛に関して、寅さんは実践よりも、理想を語っている方が似合うかもしれません。そんな寅さんが、若い世代の「恋愛コーチ」を買って出たことがあります。第20作『寅次郎頑張れ!』で、とらやの二階に下宿した、ワット君こと島田良介(中村雅俊)が、柴又の食堂「ふるさと亭」の看板娘・福村幸子(大竹しのぶ)に恋をしていることを、知った寅さん。茶の間で良介がどういうデートを考えているか尋ねます。 ところが、ノープランの良介に、博は「まぁ、二人でお茶でも飲んでさ」とアドバイスします。おばちゃんは「なんたってね、アベックは喫茶店だもんね」とニッコリ。デートのことをランデブーと言ったおばちゃん世代の感覚です。 寅さんは「それから先、きっちゃ店でどうするかが問題じゃないか」とコーチらしい厳しい表情を見せます。そこで博が「話をすればいいじゃないんですか」と助け舟を出すと、寅さん「話はしない!」と一喝します。 男は寡黙の方がいい。好きな女の子の前で、ペラペラ喋るなんて愚の骨頂といわんばかりです。 そんな寅さんですが、映画の後半、長崎県平戸島で、良介の姉・島田藤子(藤村志保)に一目ぼれし、クリスチャンの藤子と、教会に日曜礼拝に出かけます。その帰り道、良介は自分には悩みを打ち明けてくれないけど「寅さんになら何でも話すし」と藤子。寅さんは「私は性格的に、何でも喋りやすい方ですから、ええ、いや、喋りやすいったって、どうせろくなこと喋れませんけどね」と照れます。 恋する女性に限らず、寅さんには何でも話せる、そんな気づかいをしてくれる人です。そして相手の悩みに「うんうん」と耳を傾け、気持ちが沈んでいたら、面白い話をして、相手の気持ちを明るくしてくれる寅さん。マドンナと二人きりになっても、理想とする寡黙な男にはなれませんが。 × × 誤字脱字写し間違いあります。 |